転勤族サウナ愛好家の小規模な生活

関西出身の熊本在住サウナ愛好家。大学進学でおんせん県、就職し彩の国→かごんま→くまモン県と津々浦々と渡り歩く。二児の父らしい。日々あったことをつらつらと書き連ねていきます。

花粉症にサウナ療法は有効か?

もはや国民病と言っても過言ではない花粉症。幸い2020年の花粉シーズン期は例年より飛散量が少ない予想だが、花粉症を患っている人からしたらストレスMAXなシーズンであろう。花粉症シーズンになるとまことしやかに聞こえてくるのが、サウナや水風呂は花粉症対策になるという話題である。今回は僕自身の観点として花粉症にサウナ療法は有効かということを紐解いていき、花粉症サウナーの一助になれば幸いである。

(※あくまで個人的見解であり、僕自身は門外漢であるため、参考程度になれば幸いです)

 

まず、花粉症のメカニズムについて紹介したい。花粉症はアレルギー反応である。アレルギー反応は即時型、遅延型に分類される。またアレルギー反応に関与する抗体や細胞の違いによっても分類されるが、花粉症はIgEという抗体が関与するI型アレルギーであり、即時型アレルギーの代表格である。他には食物アレルギーなども即時型に分類される。アレルギー反応を引き起こす物質を抗原と呼び、いわゆる花粉症はスギやヒノキなどの花粉が抗原となり、アレルギー反応を引き起こす。日本にはスギが多く植林されているため、スギ花粉症の人が多いというわけである。また花粉以外にはハウスダストやペットの毛なども抗原となるため、花粉症の方はこまめに掃除すると良いだろう。

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https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/kafun/dl/ippan2.pdfより抜粋)

では、如何にして花粉症での目の痒みや鼻詰まりなどを引き起こすのか。上記のイラストをご覧頂きたい。まず第一段階として抗原(イラストではスギ花粉)に暴露され続けることにより、IgE抗体が産生される。何故ゆえ抗原を産生するのかというと、抗原が再び体内に取り込んだ際に「異物だ!敵だ!」と反応するためである。ざっくりした言い方をしてしまえば、防御反応だろう。

 

その後、産生されたIgE抗体は肥満細胞に結合する。この状態は感作と呼ばれ、肥満細胞が抗体まみれになっていると考えるとわかりやすい。そして再び抗原が体内に侵入すると肥満細胞上のIgE抗体に結合し、ヒスタミンなどの痒みの元となる化学伝達物質を放出するのである。これを「脱顆粒」と呼ぶ。

 

放出された化学伝達物質は毛細血管や三叉神経にある受容体に結合し、結果として痒み、鼻詰まりなどのアレルギー反応を引き起こす。これが花粉症のメカニズムである。

 

では、花粉症を抑えるのはどうすればいいかのか?ドラッグストアの市販薬や処方箋薬で対処されている方が大部分を占めるだろうが、市販されている薬の作用点としては舌下免疫療法を除くと主に2種類ある。それは「脱顆粒」を落ち着かせるメディエーター遊離抑制薬か、受容体に結合をするのを防ぐ受容体拮抗作用薬のどちらかだ。

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https://薬局実習.com/花粉症アレルギー薬/ビラノア.htmlより)

一例として抗アレルギー薬であるビラスチンの作用機序イラストを見て頂きたいが、感作された肥満細胞に抗原が結合しても化学伝達物質を放出するのを防ぐのがメディエーター遊離抑制薬。放出された化学伝達物質が受容体に結合するのを防ぐのが受容体拮抗薬である。お風呂の蛇口を閉めるのか、栓をするのかというどちらかを行うということをイメージするとわかりやすい。蛇口を閉めると流れてくる水の量(痒みの伝達物質)が少なくなる→花粉症が抑制される。もしくは、栓をすると水が流れなくなる(化学伝達物質が結合しにくくなる)→花粉症が抑制されるという考えなのである。

 

つまり、感作された肥満細胞を落ち着かせるか、化学伝達物質が放出されても受容体にくっつく前にブロックすれば良いという発想だ。では、サウナや水風呂にメディエーター遊離抑制や受容体拮抗作用はあるのだろうか?

 

結論から言ってしまうとサウナや水風呂そのものに上記のような作用があると報告されていない。つまり、花粉症が発症する機序を抑える効果はないということだ。ただし、交互浴をすることにより、自律神経のバランスを保ち免疫力の向上を補助することは出来るかもしれない。

 

サウナや水風呂に入ると交感神経が優位になり、血圧や心拍数が上昇する。外気浴では副交感神経が優位になり血圧や心拍数が落ち着き、リラックスした状態になる。つまり、交互浴で緊張と解放を繰り返すことにより自律神経が鍛えられるということだ。この部分は2020年1月19日に「所さんの目がテン」でのサウナ特集でも放送された(https://s.kakaku.com/tv/channel=4/programID=181/episodeID=1331291/

放送内容をスクショして貼り付けようかと思ったが著作権的な意味合いで割愛させて頂くが、サウナや水風呂での交感神経が活発になる仕組みとして、高温の空気や冷たい水が全身の皮膚を刺激し、神経の興奮が高められることが考えられる。そこから休息のために通常の室温に戻るのが外気浴の時間というわけであり、今度は副交感神経が優位に働くということだ。ちなみに、胃腸での胃液の分泌が活性化するのは副交感神経が活発な時であるため、サウナでの交互浴後にお腹が空くのは至って自然なことだろう。汗もかいた後だから塩分も欲するだろうし。

 

言いたいことは何かというと、サウナや水風呂で交互浴をして自律神経を鍛えることにより免疫力の強化には繋がることは考えられるものの、免疫力が強化したからといって万病に効くという保証はない。例えば、免疫力が高いから風邪を引かない保証はないし、サウナに入っていても風邪を引いたことがある愛好家の方は多いのではないか。自律神経をサウナや水風呂で鍛えても免疫力の強化には繋がるかもしれないが、アレルギー反応の大元であるメディエーター遊離抑制や受容体拮抗作用が働かないということだ。

 

では、何故サウナや水風呂に入ると目の痒みや鼻詰まりが軽減されたと感じるのか?それは抗原の洗い流し効果が大きく関与しているのではないかと推測する。

 

日本眼科医会のアレルギー性結膜疾患診療ガイドラインにおいて、アレルギー性結膜炎のセルフケアに関して眼表面に付着した花粉に人工涙液での洗い流しが有効と考えられていると記載がある。何が言いたいかというと、お風呂などに入ることにより付着した花粉が洗い流され、すっきりする。またアレルギー反応により腫張など炎症反応が起こっているため、水風呂にて冷やすことによって疼痛が緩和される、一時的な爽快感を得られるのではないかというのが個人的見解である。極度の花粉症の方が目玉を取り出して洗いたいくらい!と例える人もいるため、強ち的外れな推測でもないはずだと思う。

ちなみに、洗眼に用いる人工涙液は防腐剤フリーのものを推奨されているため、セルフケアの際には気を付けたいポイントだ。また暴露量を減らすために、コンタクトを使っている人はメガネに切り替えるなどもセルフケアのポイントだし、冷やしタオルを目を閉じてのせるのも痒みの緩和に役立つ。

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http://www.nichigan.or.jp/member/guideline/allergy-2_06.pdfより)

では、サウナは全く効果は無いのか?ここで一つ、スチームサウナにはアレルギー性鼻炎を軽減に役立つという報告があったので紹介したい。

 

2018年に報告されたアレルギー性鼻炎におけるハーブスチームバスの有効性と安全性の検討という試験である(Efficacy and safety of herbal steam bath in allergic rhinitis: a randomized controlled trial.

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2095496417300195?via%3Dihub

 

2016年6月から12月にかけて、Thai Traditional and Alternative Medicine Hospitalで64人の被験者を対象に実施し、治療グループはハーブスチームバス、コントロールグループはハーブなしのスチームバスを連続4週間、週3回30分入るという試験デザインの研究だ。鼻のかゆみ、鼻水、くしゃみ、鼻づまり、涙目などのアレルギー性鼻炎の症状は、0、1、2、3、4週目に視覚アナログスケールを使用して測定されている。 

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http://www.katano-hp.or.jp/annai/sekitsui/journal/topics/pg283.htmlより)

視覚アナログスケールとはVASと略される調査票のことで、痛みや痒みの程度を調査する場合に0点から10点までの数値として表現し、数値化して他者にわかりやすくするという方式だ。この試験ではアレルギー性鼻炎の程度をVASにて視覚化し、スチームサウナ前後でどれだけ症状を緩和したかを解き明かすということが目的であるということだ。

 

結果として、くしゃみ、鼻のかゆみ、鼻づまりを含む症状は、治療中に統計的に減少が、対照群と治療群の間で有意な差はなかった。 しかし、治療群は対照群よりも治療に有意に満足していることが示されたとある。つまりは、スチームサウナはアレルギー性鼻炎の症状を軽減出来ることが示唆され、ハーブを含むスチームバスとハーブを含まないスチームバスの有効性に違いは無いという結果だ。

 

この研究結果で面白い点はハーブを含もうが含まなかろうが、スチームサウナはアレルギー性鼻炎症状を緩和するという点だ。鼻の粘膜が乾燥することなく湿度を保つと鼻通りが良くなると言われているが、この研究では恐らくスチームサウナの蒸気が粘膜を適度な湿度を保つことに寄与したのが示唆される。実際に2010年に本邦で花粉症に対するスチームネストネブライザー療法の有効性を報告した研究結果もある。

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https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/53/Supplement2/53_Supplement2_s90/_pdfより)

またハーブスチームサウナの方が満足度が高かったという点も面白い結果だろう。要は薬草の有無ではなく、スチームを浴びることはアレルギー性鼻炎の症状緩和に有効ということだが、薬草入りの方が満足度が高いという結果は恐らく、「薬草=身体に良さそう!香りも効きそう!」という心理的バイアスがかかっていることが推測される。確かに自験例で考えてみると、御徒町にあるサウナ施設のプレジデントや芦屋水春などの薬草スチームサウナに入るとニッキなどの漢方の芳しい香りが呼吸器系に良い影響を与えてそうな気がする。

 

ただし、スチームサウナもドライサウナと同様に肥満細胞を安定化させたり、受容体に拮抗する作用は報告されていないため、薬の代替になるほど効果があるのかは未知数であるし、個人的見解だが痒みなどが酷いケースは処方箋薬に頼った方が無難だと思う。サウナはあくまでセルフケアの一部として上手に活用するべきだろう。もしサウナでの花粉症対策に気になるサウナーの方がいらっしゃったら、ご自身でサウナに入る前後でのVASを付けてみても良いかもしれない。

 

以上、長々と書き連ねたが、個人的見解からまとめると…

・サウナや水風呂に肥満細胞を安定化させる作用は無い

・化学伝達物質が受容体に結合するのを防ぐ作用もない

・ただし、交互浴によって自律神経を鍛え、自律神経のバランスを保つことには役立つ

・スチームサウナはアレルギー性鼻炎の症状緩和に役立つことが示唆

・セルフケアの一部としてサウナを活用し、重症化する前に医療施設に行くべし

・マスクやメガネなどもセルフケアの一部として活用すべし

ということである。

 

ちなみに、花粉が飛散する前、もしくは症状が軽いうちに治療を始めることを初期療法 と言い、症状が出るのを遅らせたり、症状を軽く出来る可能性があるため、毎年花粉症を患う人は早めの受診を心掛けたい。

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http://www.kafun-now.com/sp/knowledge/03.xhtmlより)

ドラマ「サ道」にて宅麻伸演じる蒸しZが言っていたが、「サウナを信じるな…」という部分は花粉症に対するサウナ療法にも当てはまるのである。サウナを過信せず上手に付き合い花粉シーズンを乗り越えて頂きたいものである。